乾癬

Psoriasis

症状

乾癬とは、一般的に尋常性乾癬を指します。全身のいろいろな場所に、皮膚が赤くなってもり上がったり、表面に銀白色の「かさぶた」のようなものができて、ポロポロとはがれ落ちたりします。症状が良くなったり悪くなったりをくり返しながら慢性的に経過します。乾癬にかかると、皮膚が赤くなって(紅斑)、もり上がり(浸潤)、その表面に銀白色のかさぶた(鱗屑)が厚く付着して、それがフケのようにぼろぼろとはがれ落ちる(落屑)という症状が起こります。鱗屑を無理にはがすと、出血することもあります。かゆみには個人差があり、全くみられない人もいれば、強いかゆみが起こる人もいます。
症状が進むと病変部(皮膚症状があらわれている部分)の数が増え、互いに融合して大きくなります。また、手足の爪が変形することもあります。
皮膚症状のほかに、関節の痛みや変形、発熱や倦怠感などの全身症状が起きることもあります。頭皮や髪の生え際、肘、膝など擦れるなどして刺激を受けやすい部位でよくみられますが、それ以外の部位にも発疹が出ることがあります。
日本人は1000人に1人くらいで、女性は若い時に、男性は中年以降に発症します。日本乾癬学会の統計によると,10歳未満の発症が4%、10~19歳での発症が12.2%であり、子どもでも発生します。症状は良くなったり悪くなったりしますが、一般的に夏に症状が軽くなり、乾燥しやすい冬に症状が悪化する傾向があります。

乾癬は症状によって次の5つに分類されます。

  1. 尋常性乾癬(じんじょうせいかんせん)
  2. 乾癬性関節炎(かんせんせいかんせつえん)
  3. 滴状乾癬(てきじょうかんせん)
  4. 乾癬性紅皮症(かんせんせいこうひしょう)
  5. 膿疱性乾癬(のうほうせいかんせん)

①尋常性乾癬 (局面型乾癬)
約90%を占めるタイプの乾癬です。
1つ1つの皮疹が大きくなって互いにくっつくと、局面を形成するので、「局面型乾癬」とも呼ばれています。

②関節症性乾癬(乾癬性関節炎)
皮膚症状に加え、関節に痛みや変形などがあらわれます。少し関節が腫れているだけの軽い人から、手足の指、背骨、腰などの関節が変形し、日常生活に支障のある人まで個人差があります。
関節炎を生じた関節では、強い炎症によって腫れや強い痛みが起きるばかりでなく、骨が少しずつ壊され、やがて変形していきます(関節破壊)。

③膿疱性乾癬
通常の乾癬の症状の中に、膿疱(白または黄色い膿をもった発疹)ができます。高熱、全身のむくみ、関節痛、倦怠感などがみられ、入院による治療が必要となる場合もあります。

④乾癬性紅皮症
皮膚症状が全身に拡大した状態で、全身の90%以上が真っ赤になります。皮膚の働きが損なわれるため、体温調節ができなくなり、発熱や倦怠感を生じます。ときに入院が必要となります。

⑤急性滴状乾癬
風邪や扁桃炎などに引き続いて、全身に滴状(米粒大~大豆大くらい)のカサカサした落屑を伴う紅斑が急速に出現します。

原因

〜乾癬ができるメカニズム〜
乾癬の皮膚では、表皮の新陳代謝のサイクルが短くなり、角化細胞(垢となって落ちる細胞)が鱗屑となって はがれ落ちます。これに加え、炎症によって皮膚が赤くもり上がります。 皮膚の最も外側は、表皮と呼ばれる薄くて丈夫な層で覆われており、細菌やウイルスなどの異物が体内に侵入するのを防ぐなどの働きをしています。

正常な皮膚では通常、表皮細胞が約45日のサイクルで新陳代謝をくり返しています。 乾癬患者さんの皮膚ではそのサイクルが正常な皮膚の10分の1(4~5日)くらいに短くなり、角化細胞が鱗屑となって重なり、たまって、はがれ落ちます。また、白血球などの血液成分やTNFα(炎症を引き起こす体内物質)が増えるため、皮膚が赤くもり上がったり、かゆみが起こります。 乾癬の原因については、まだ完全には解明されていません。
乾癬になりやすい体質があり、そこに感染症や精神的ストレス、薬剤などのさまざまな要因が加わって発症すると考えられています。糖尿病や脂質異常症(高脂血症)、肥満なども影響するといわれています。 最近の研究で、乾癬患者さんの病変部では、表皮の異常だけでなく免疫系にも異常が生じ、炎症が起きていることがわかってきました。
免疫とは、私たちの身体を細菌やウイルスなどの異物から守るための防御システムです。しかし、何らかの要因(遺伝的な要因〔体質〕、外部から加わった要因)でこのシステムが正しく機能しなくなると、反対に身体を攻撃する方向に働き、病気や炎症を引き起こす原因となってしまいます。 乾癬は、他人に感染することはありません。

注意点

乾癬は症状をコントロールしながら、うまく付き合っていくことが大切です。 乾癬そのものを完治させるのは難しいですが、食生活を見直す、体重を落とす、たばこをやめる、などの生活習慣の改善でも治療の効果が現れやすくなったり、乾癬の症状そのものが良くなったりするといわれています。

①食事はバランス良く
厳密な食事制限は必要ありませんが、カロリーの高い食事は悪化要因となります。また、糖尿病や脂質異常症(高脂血症)、肥満なども乾癬の発症や悪化と関連していることが報告されています。暴飲暴食はやめて、カロリーや脂質を控えて、栄養バランスの良い食事を心がけましょう。 肉類や脂肪分の摂りすぎは、乾癬を悪化させることがあるといわれています。
肉類より魚類(特に青魚)を積極的に摂るようにし、揚げ物や、油を多く使った炒め物は控えめにしましょう。また、刺激の強い食品は避けましょう。香辛料などの刺激物、熱いスープなどは、かゆみを誘発したり強めたりすることがあります。
飲酒もかゆみが増すきっかけになりますので、控えめにしましょう。

②きずを作らないようにしましょう
掻き傷、切り傷、やけど、虫さされ、靴ずれ、カミソリ負けといったささいな傷や、衣服、メガネなどとの摩擦による刺激でも、新たな皮疹が誘発される(ケブネル現象)ことがあります。新たに傷をつくったりしないように注意しましょう。

③感染症にかからないように体調管理をしましょう
風邪や扁桃腺炎などの感染症にかかると、乾癬が再発したり、症状が悪化することがあります。手洗いとうがいを励行し、体調管理に気を付けましょう。

④持病の治療もしっかりと
乾癬患者さんには、糖尿病、高血圧、高脂血症、リウマチ性疾患、痛風、扁桃腺炎、腎炎、肝炎などを患っている人が多い傾向があります。
これらの病気が悪化すると乾癬の症状も悪化することがあるので、持病や合併症もあわせて治療していくことが大切です。

⑤ストレスをためないようにしましょう
仕事や対人関係の悩み、家庭内のトラブルなど、さまざまなストレスが発症・悪化の引き金となります。乾癬そのものに対する悩みや不安がストレスとなり、悪化させるという悪循環も起こります。
趣味を持ったり、散歩やスポーツで気分転換を図ることなども効果的です。

⑥タバコはやめましょう
タバコを吸うとのどを痛め、乾癬の悪化要因である風邪や扁桃腺炎などにかかりやすくなります。

⑦規則正しい生活を送りましょう
不規則な生活や睡眠不足も悪化要因です。十分な睡眠と食事の時間を心がけ、規則正しい生活を送るようにしましょう。

⑧かゆくても掻かないようにしましょう
かゆいと掻きたくなりますが、ケブネル現象を起こすことがあります。
なるべく掻かないようにし、爪はこまめに切るようにしましょう。

⑨長風呂や熱めのお湯は避けましょう
長時間の入浴や熱めのお湯は、かゆみが増します。ぬるめの温度にし、できるだけ長時間の入浴は避けましょう。

⑩お風呂でゴシゴシ洗うのは厳禁です
お風呂でゴシゴシ洗ってこすりすぎるとケブネル現象を起こし、症状を悪化させてしまいます。ナイロンタオルは控え、せっけんをよく泡立てて手でやさしく洗いましょう。 入浴後はしっかりとお肌の保湿をしましょう。

⑪肌に刺激のある服は避けましょう
衣服が肌にこすれると悪化の要因になりますので、ゆったりとした余裕のあるものを身につけましょう。 肌に直接触れる衣服や寝具のカバーなどは、綿などの柔らかく刺激の少ない素材を選びましょう。

治療方法

外用療法(塗り薬)

乾癬の治療方法は、患者様のライフスタイルやその時の症状に応じて外用療法や内服療法、光線療法、抗体療法から治療効果と副作用などを考慮して選択されます。そのため、皮膚科を受診して適切な治療を受ける事が大切です。乾癬の治療のアプローチには主に、「紅斑の主な原因である炎症を抑えること」と、「鱗屑の主な原因である皮膚の細胞が過剰に作られることを抑えること」の2つがあります。

こんな特徴があります
  • ステロイド外用薬
    ~炎症を抑える~
    乾癬により、活発になった白血球の活動や血管の拡張を抑えることで皮膚の炎症を抑制する作用があります。効果の強さによって5段階に分けられ、症状に応じて使い分けます。特に紅斑の改善に効果的です。効果は比較的早く現れますが、長期間にわたり漫然と使用すると、皮膚が薄く弱くなる(皮膚萎縮)、毛細血管が拡張するなどの副作用を生じる場合もあります。

  • ビタミンD3外用薬
    ~皮膚の細胞が過剰に作られることを抑える!~
    ビタミンD3には、皮膚の細胞が過剰に作られるのを抑え、正常な皮膚に導く作用があります。特にフケのように剥がれ落ちる鱗屑や、皮膚の盛り上がりの改善に効果的です。ステロイド外用薬に比べ、ゆっくりと効果が現れる薬剤ですが、一度症状が良くなれば、その状態を長期間保つことができます。 ビタミンD3外用薬は、塗った部位に軽い刺激感などを生じることがあります。また、一度に所定の量より多く塗ると、のどの渇き、脱力感、食欲不振などの全身性の副作用が起こることがあります。

  • ステロイドとビタミンD3の配合外用薬
    ~炎症と皮膚の細胞が過剰に作られることを抑える~
    ステロイドとビタミンD3の2つの成分を配合しています。1日1回の外用で、ステロイド外用薬やビタミンD3外用薬を単独で使うより高い効果が認められます。 副作用については、ステロイドがビタミンD3による刺激感を、ビタミンD3がステロイドによる皮膚萎縮を、お互いに抑えあう可能性が報告されています。しかし、一度に所定の量より多く塗ると、のどの渇き、脱力感、食欲不振などの全身性の副作用が起こることがあります。 外用療法は関節症状に対する効果はありません。

光線療法(紫外線照射)

乾癬の症状は、一般的に紫外線が強くなる夏に良くなる傾向があります。光線療法は紫外線の免疫反応を抑える作用を利用しています。塗り薬だけでは良くならないときや、発疹の面積が広くなったときに、光線療法が用いられます。光源ランプを用いて発疹に直接紫外線をあて、過剰な免疫反応を抑えます。
紫外線には波長によって種類がありますが、効果が認められるのは、中波長紫外線(UVB)と長波長紫外線(UVA)です。

こんな特徴があります
  • 中波長紫外線療法(UVB)
    現在広く使用されているのは、「ナローバンドUVB療法」です。ナローバンドUVB療法では全身に紫外線を照射しますが、発疹のみに照射する「ターゲット型エキシマランプ」もあります。

  • 長波長紫外線療法(UVA)
    UVAは、光に対する感受性を高める薬剤を飲んだり塗ったりしてから照射する「PUVA療法」に用いられます。

  • 実施するのに定期的な通院(1週間に1回程度)が必要になります。
    普段から適度に日光を浴びることも推奨されています。ただし、過度な日光浴は逆に乾癬を悪化させたり、皮膚がんの原因となったりすることもありますので、日焼けのし過ぎは禁物です。光線療法は関節症状に対する効果はありません。
    〜光線療法の副作用〜
    焼け 色素沈着

内服療法(飲み薬)

乾癬の治療に用いられる飲み薬には、主に次の3種類があります。(保険適用)

こんな特徴があります
  • PDE4阻害薬
    免疫にかかわる細胞に存在する酵素の働きを抑え、過剰に発現している炎症を起こす物質の生産を抑える働きがあります。
    副作用:頭痛 吐き気 下痢など

  • 免疫抑制薬
    乾癬で過剰に働いている免疫反応を抑えます。
    副作用:血圧の上昇 腎機能低下

  • ビタミンA誘導体
    皮膚の細胞が過剰に作られることを抑えます。
    副作用:口唇炎
    手足の皮めくれ 精子を作る機能や胎児に影響を与える恐れがあるため、服用中と内服中止後も男性は6ヵ月、女性は2年の避妊が必要です。

生物学的製剤(注射または点滴)

塗り薬や飲み薬など、これまでの治療で十分な効果がみられない患者さんには「生物学的製剤」が用いられます。生物学的製剤は、乾癬の症状が出ている部位の、炎症にかかわるたんぱく質(サイトカイン)の働きをピンポイントで抑えて症状を改善します。 乾癬を引き起こすサイトカインを直接抑制するため高い効果が期待でき、皮膚症状だけでなく、関節症状にも効果があります。
一方で、これらのサイトカインは体を守る免疫の働きもあるので、生物学的製剤で働きを抑えることにより、風邪などの各種感染症にかかりやすくなる可能性が高くなります。

よくある質問